ブランドづくりは、いきなりロゴやキャッチコピーを考えることから始まるわけではありません。
ここまでの記事では、まず3C分析で顧客・競合・自社を見ながら市場機会を探し、セグメンテーションで市場を分け、ターゲティングで自社の価値を最も高く評価してくれる見込み客を選んできました。
その後、ペルソナで顧客像を具体化し、前回の記事では、顧客の頭の中で競合と比べてどんな独自の立ち位置を取るのかというポジショニングについて整理しました。

ここまで来て、ようやく次の問いに進めます。
「では、自分たちは顧客からどのような存在として認識されたいのか。」
それを言葉にしたものが、ブランド・アイデンティティです。
この記事では、ブランド・アイデンティティとは何か、ブランドイメージやタグラインとの違い、そしてどう考えていけばよいのかを整理します。
1.ブランド・アイデンティティとは何か
ブランド・アイデンティティとは、
顧客から「こういうブランドだ」と思われたい姿を言葉にしたもの
です。
ブランドは企業が一方的につくるものではありません。
商品を使う。
Webサイトを見る。
広告を見る。
店員と話す。
SNSを見る。
問い合わせをする。
そうしたさまざまな体験を通じて、顧客の中に、
「この会社はこういう会社だ」
「このブランドはこういう存在だ」
という認識がつくられていきます。
その顧客側に形成される認識がブランドだとすれば、
ブランド・アイデンティティは、
その認識をどの方向へ育てたいのかを示す旗印
と言えます。
2.ブランド・アイデンティティとブランドイメージの違い
ここは混同しやすいところです。
ブランド・アイデンティティは、
企業側が「こう思われたい」と考えるもの。
一方、ブランド・イメージは、顧客の頭の中に実際に形成されている「このブランドはこういうブランドだ」というイメージ、つまり「こう思う」です。
ブランディングとは、この「こう思われたい」と「こう思う」の距離を縮めていく活動とも言えます。
例えば企業側が、
「親しみやすいブランドとして認識されたい」
と思っていても、
顧客からは、
「少し堅い会社」
と思われているかもしれません。
この場合、
ブランド・アイデンティティとブランドイメージにはギャップがあります。
ブランディングは、
このギャップを少しずつ近づけていく活動でもあります。
学術的にも、ブランド構築では「どう認識されたいか」というアイデンティティと、「実際にどう思われているか」というイメージの両方を見る必要があるとされています。
3.ブランド・アイデンティティは、いきなり考えない
ブランド・アイデンティティは、いきなり考えるものではありません。
まずは、顧客・競合・自社を見ながら市場機会を探ります。ここでは3C分析のようなフレームワークを使い、どこに顧客ニーズがあり、自社の強みを生かせる余地があるのかを整理します。
そのうえで、市場をセグメンテーションし、自社の価値を最も高く評価してくれる顧客をターゲットとして選びます。さらに、ペルソナを通じてその顧客像を具体化し、その人の頭の中で競合と比べてどのような独自の立ち位置を取るのかを、ポジショニングとして考えていきます。
そして最後に、ここまで整理してきた内容を踏まえて、
「自分たちは、顧客からどのような存在として思われたいのか」
を言葉にしていきます。
それが、ブランド・アイデンティティです。
4.まず「顧客は誰か」を確認する
ブランド・アイデンティティを考える最初の問いは、
誰から、そう思われたいのか。
です。
すべての人から、
「良い会社」
「素敵なブランド」
と思われる必要はありません。
むしろ、
自分たちが価値を届けたい相手から、
強く意味のある存在として認識される方が重要です。
例えば、
価格を最優先する人と、品質や体験を重視する人では、ブランドに期待するものが違います。
だから、
「どう思われたいか」を考える前に、
誰にとってのブランドなのかを明確にする必要があります。
5.ポジショニングを踏まえて「どう思われたいか」を考える
ブランド・アイデンティティを考えるうえで重要なのが、ひとつ前の工程で整理したポジショニングです。
ポジショニングでは、企業側が一方的に、
「自社はこういう会社です」
「この強みを伝えたい」
と決めるのではありません。
まずペルソナとなる顧客の立場に立ち、
その人の頭の中で、自社や競合がどのように比較され、どのような位置づけになっているのか
を考えます。
例えば企業側は、
「高い専門性がある」
「一気通貫で支援できる」
「独自のノウハウを持っている」
を強みだと思っているかもしれません。
しかし、顧客の頭の中では、
「専門性は高そうだが、自社の状況まで理解してくれるのか」
「いろいろできる会社だけれど、結局どこが一番強いのか」
「ノウハウはありそうだが、実行まで一緒に動いてくれるのか」
と見られているかもしれません。
ここで重要なのは、企業側が持っている強みそのものではなく、
その強みが顧客の頭の中で、競合と比べたときにどのような価値として位置づけられているかです。
例えば、自社では
「戦略から実行まで一気通貫で支援できる」
ことを強みだと考えていたとします。
しかし、顧客の頭の中では、
「大手コンサルほど遠くない」
「制作会社より上流から話せる」
「広告代理店よりも施策ありきではない」
「外部支援なのに、自社の中に入り込んで一緒に考えてくれる」
といった比較の中で価値を感じているかもしれません。
こうした顧客側の比較軸と位置づけまで見えて初めて、「では自分たちは、最終的にどう思われたいのか」を定義できます。
大切なのは、企業が伝えたい言葉をそのままブランド・アイデンティティにすることではありません。
顧客が何を重視し、競合とどのように比較し、その中で自社のどこに価値を感じるのか。
それをポジショニングの段階で整理したうえで、
「では、その顧客から最終的にどのような存在として思われたいのか」
を考えていきます。
つまり、
顧客理解
→ 競合との比較
→ ポジショニング
→ ブランド・アイデンティティ
という流れです。
ポジショニングを飛ばして、いきなり「どう思われたいか」を考えてしまうと、
「信頼される会社」
「革新的なブランド」
「お客様に寄り添う企業」
といった、どの会社にも当てはまりそうな言葉になりがちです。
一方で、顧客の頭の中にある競合との比較や、自社ならではの独自性まで整理できていれば、ブランド・アイデンティティはより具体的で、その企業らしいものになります。
だからこそ、ブランド・アイデンティティは単独で考えるものではありません。
ポジショニングで見つけた「顧客の頭の中で取るべき独自の立ち位置」を、「こう思われたい」という言葉に凝縮していく。
それが、この工程だと考えています。
これなら、前回の記事を読んだ人にも「なるほど、ポジショニングはBIを作るための前工程だったのか」と腹落ちすると思います。
そして次の「自社には何ができるのか」「自分たちは何を提供したいのか」にも、かなり自然につながります。
6.自社には何ができるのか
顧客に期待されているからといって、
何でもブランド・アイデンティティにできるわけではありません。
次に見るのは、
自社には、その期待に応えられる能力があるか。
です。
例えば、
「どこよりも早い」
というブランドを目指しても、
実際の業務プロセスが遅ければ成立しません。
「一人ひとりに寄り添う」
と言いながら、
問い合わせ対応が画一的なら、
ブランド体験に矛盾が生まれます。
ブランド・アイデンティティは、
単なる理想ではなく、
自社が実際に提供できる価値
とつながっていなければいけません。
7.そして、自分たちは何を提供したいのか
もう一つ大切なのが、
自分たちは、何を大切にしたいのか。
です。
顧客に求められている。
自社にもできる。
それだけでは、
長く続くブランドにはなりません。
そこに、
企業自身の意志が必要です。
何のためにこの事業をしているのか。
どんな顧客を幸せにしたいのか。
どんな価値を世の中に残したいのか。
ブランド・アイデンティティには、
顧客の期待
× 自社の能力
× 自社の意志
が重なる必要があります。
ブランド・マネージャー認定協会のテキストでも、ポジショニングを踏まえたうえで、「顧客」「期待」「能力」「意志」の4つの問いから「こう思われたい」を言語化する流れが整理されています。
8.ポジショニングとブランド・アイデンティティの違い
前回の記事とのつながりとして、ここも整理しておきます。
ポジショニングは、
顧客の頭の中で、競合と比べてどんな独自の立ち位置を取るか
を考えるものです。
一方、ブランド・アイデンティティは、
そのポジショニングを踏まえて、
最終的に顧客からどんな存在として思われたいのか
を言葉にしたものです。
例えば、
ポジショニングの検討を通じて、
「戦略だけでなく、実行まで一緒に動くマーケティングパートナー」
という独自の立ち位置が見えてきたとします。
ここで終わりではありません。
その立ち位置が、顧客の頭の中でどのような意味を持つのか。
競合と比べたときに、どんな存在として記憶されたいのか。
そこまで考えたうえで、
「自分たちは、顧客からこう思われたい」
という言葉にまとめていきます。
つまり、
ポジショニングで「どこに立つか」を決め、
ブランド・アイデンティティで「どう思われたいか」を言葉にする。
この関係です。
9.ラテンサムライの場合
ラテンサムライ株式会社では、
ブランド・アイデンティティを、
「価値を磨き、伝わるブランドに翻訳する伴走者」
と整理しています。
これは、
単にマーケティング施策を実行する会社でも、
ロゴやWebサイトをつくる会社でも、
戦略だけを提案する会社でもない。
企業の中にある価値や強みを見つけ、
それを顧客に伝わる言葉や体験へ変え、
実行まで一緒に進める。
そんな存在として認識されたい、
という考え方です。
現在のWebサイトでも、ラテンサムライは「ブランド戦略から実行支援まで」「想いを、ブランドへ。ブランドを、成長へ。」という方向性を一貫して打ち出しています。
10.ロゴやデザインより先に、ブランド・アイデンティティを決める
ブランドづくりでは、
ロゴ。
カラー。
Webサイト。
動画。
広告。
SNS。
といった目に見える表現に意識が向きやすいものです。
でも、ブランド・アイデンティティが曖昧なまま制作を始めると、判断基準がなくなります。
「こっちのデザインの方がかっこいい」
「この色の方が今っぽい」
という、好みの議論になりやすい。
だからこそ、その前に決めておきたいのがブランド・アイデンティティです。
ブランド・アイデンティティは、
「誰に、どんな価値を届けるブランドなのか」
を明確にし、そのうえで、
「その価値を通じて、顧客からどう思われたいのか」
を言葉にしたものです。
つまり、ロゴやWebサイト、広告などを考える前に、
自分たちは顧客に何を価値として届けるブランドなのか
を定めておく。
それがブランド・アイデンティティの役割です。
表現を考えるのは、その後です。
ブランド・アイデンティティが明確になっていれば、クリエイティブを考える際にも、
「このブランドらしいか」
という共通の判断基準を持つことができます。
そして次に必要になるのが、ここで定めたブランド・アイデンティティを、実際の顧客接点や体験にどうつなげていくかという視点です。
11.ブランド・アイデンティティは、言葉だけで終わらせない
もう一つ大事なのは、
ブランド・アイデンティティを決めただけで、
ブランドが完成するわけではないということです。
顧客は、
ブランド・アイデンティティそのものを見るわけではありません。
実際に見るのは、商品やサービス、Webサイト、広告、営業担当者、店舗、問い合わせ対応、SNSです。
だから、
「こう思われたい」
と決めたら、
その認識につながる体験を、
すべての顧客接点で積み重ねる必要があります。
例えば、
「身近なパートナー」と思われたいなら、
問い合わせへの返信。
打ち合わせ。
資料。
契約後の対応。
こうした細かい体験まで、
そのブランドらしくある必要があります。
12.ブランドは「言ったこと」ではなく、「積み重ねた体験」でつくられる
企業が、
「私たちは信頼できる会社です」
と言ったからといって、
信頼されるわけではありません。
何度も誠実な対応を受ける。
約束したことが守られる。
困ったときに助けてもらえる。
そうした体験の積み重ねによって、
顧客の中に、
「この会社は信頼できる」
という認識ができていきます。
つまり、
ブランド・アイデンティティは、
ブランドづくりのゴールではなく、進む方向を示すもの
です。
そこから先、
どんな体験を積み重ねていくか。
それがブランディングです。
まとめ|ブランド・アイデンティティは「どう思われたいか」を決める旗印
ブランド・アイデンティティとは、
顧客から、どのような存在として認識されたいのか
を言葉にしたものです。
ただし、
いきなりコピーを考えるわけではありません。
3C分析で市場を見る。
市場を分ける。
ターゲットを選ぶ。
ペルソナを理解する。
ポジショニングを考える。
そのうえで、
顧客の期待
× 自社の能力
× 自社の意志
を重ねながら、
「どう思われたいか」
を言葉にしていきます。
そして、
その言葉を、
クリエイティブやWebサイト、商品、サービス、営業、顧客対応へとつなげていく。
ブランド・アイデンティティは、
ロゴをつくるための言葉ではありません。
企業の判断と顧客体験を一つの方向へそろえるための旗印
だと考えています。
自社が「どう思われたいか」を一緒に整理します
「強みはあるけれど、うまく言葉にできない」
「競合との違いが曖昧」
「ロゴやWebサイトを変えたいが、その前に何を整理すべきか分からない」
そんな段階でも問題ありません。
ラテンサムライでは、
顧客。
競合。
自社の強み。
ターゲット。
ポジショニング。
ブランド・アイデンティティ。
を一緒に整理しながら、
自社らしい「選ばれる理由」
を言葉にしていきます。
気になるテーマがあれば、そのままご相談ください。