ブランド戦略を考えるとき、最初にロゴやWebサイト、広告から手をつけたくなることがあります。
「ブランディングを強化したい」
「自社の強みをもっと伝えたい」
「Webサイトや広告を見直したい」
こうした課題があると、ロゴを変える、Webサイトをリニューアルする、SNSを始める、広告を出す、といった施策を考えたくなります。
もちろん、それらが必要なこともあります。
ただ、その前に一度整理したいのがブランド戦略です。
ブランド戦略は、見た目を整えるためだけのものではありません。
誰に、どのような価値を届け、顧客からどのような存在として認識されたいのか。
そして、その価値を商品・サービス、コミュニケーション、顧客体験まで一貫させていくための設計です。
なお、この記事では「ブランド」「ブランド構築」「ブランディング」「ブランド戦略」を、次のように使い分けます。
ブランド
顧客の中に形成される、企業・商品・サービスに対する認識や意味。
ブランド構築
望ましいブランド認識をつくるために、価値や独自性、顧客体験などを設計していくプロセス。
ブランディング
ブランド構築を実現するために、社内外で継続的に行う活動。
ブランド戦略
誰に、どのような価値を届け、どのような存在として認識されたいのかを定め、その実現に向けて事業やマーケティング、コミュニケーションの方向性を一貫させる考え方。
この4つを区別すると、ブランド戦略の役割も理解しやすくなります。
1.ブランド戦略とは何か
ブランドというと、ロゴやデザイン、広告などを思い浮かべる方も多いと思います。
しかし、それらはブランドそのものではなく、ブランドを表現するための要素です。
ブランド・マネージャー認定協会では、ブランドを、ある特定の商品やサービスが顧客によって識別されている状態として捉えています。つまり、企業側が「これはブランドです」と宣言するだけではなく、顧客の中で他とは違うものとして認識されていることが重要です。
そのため、ブランド戦略では、
- 誰に価値を届けるのか
- 顧客は何を求めているのか
- 競合にはどんな選択肢があるのか
- 自社にはどんな強みや資産があるのか
- どのような存在として認識されたいのか
- どんな体験を提供するのか
を整理していきます。
ブランド戦略とは、単なるイメージ戦略ではありません。
顧客からどう認識され、なぜ選ばれる存在になるのかを、事業全体で設計すること。
そう考えると分かりやすいと思います。
2.ブランド戦略とマーケティング戦略は分断しない
ブランド戦略とマーケティング戦略は、別々に考えるものではありません。
ブランド・マネージャー認定協会のテキストでも、ブランド戦略は経営戦略から一貫して派生し、マーケティング戦略やコミュニケーション戦略と一体で計画・実行していく考え方が示されています。
これは実務でも非常に重要だと思っています。
ブランド戦略で、
「誰に、どんな価値を届け、どう認識されたいのか」
を決める。
マーケティングでは、その価値を顧客へ届け、購入・利用・継続などの行動につなげていく。
そしてコミュニケーションでは、どのような言葉や表現で伝えるかを考える。
つまり、
ブランド戦略は上にあって、マーケティングは下にある
という単純な関係ではありません。
経営戦略から顧客との接点まで、一本の筋を通すために互いにつながっています。
だから、ブランディングだけを考えてマーケティングを無視してもいけません。
反対に、マーケティング施策だけを回してブランドを置き去りにしても、長期的には選ばれる理由が弱くなります。
出典:一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会『アドバンスコース テキストブック』
ブランドとWebマーケティングの関係については、
「ブランディングとWebマーケティングを分けてはいけない理由」でも詳しく解説しています。
3.ブランド戦略がないと施策がバラバラになる
ブランド戦略が曖昧なまま施策を増やしていくと、よく起きることがあります。
Webサイトでは「品質」を訴えている。
SNSでは「親しみやすさ」を前面に出している。
広告では「安さ」を訴求している。
営業資料では「専門性」を強調している。
一つひとつは間違っていないかもしれません。
ただ、顧客から見ると、
「結局、このブランドは何がいいのだろう?」
となってしまいます。
私は広告会社、Amazon Japanと、異なる環境で企業のマーケティングに長く携わってきました。
デジタルマーケティングでは、クリック率、CPA、ROASなど、施策の成果を細かく確認できます。
これは非常に重要です。
一方で、数字を改善することに集中するほど、
「そもそも、何を伝えるべきなのか」
という問いが抜け落ちることがあります。
広告のクリエイティブを改善する前に。
Webサイトを作り直す前に。
SNSの投稿数を増やす前に。
自分たちは何を価値として届けるブランドなのか。
一度ここへ戻ることが必要です。
4.ブランド戦略は「誰に、どんな価値を届けるか」から始める
ブランド構築では、環境分析からセグメンテーション、ターゲティング、ポジショニングへと、いくつかのステップに沿って考えを整理していきます。
ただ、フレームワークを埋めること自体が目的ではありません。
最初に考えたいのは、
「誰に、どんな価値を届けたいのか」
です。
例えば同じホテルでも、
静かな環境で日常から離れたい人を対象にするのか。
家族で思い切り遊びたい人を対象にするのか。
仕事と休暇を組み合わせたい人を対象にするのか。
それによって、必要な施設もサービスもコミュニケーションも変わります。
商品でも同じです。
「高機能な化粧品」として選ばれたいのか。
「毎日の気分を高めてくれる化粧品」として選ばれたいのか。
「環境や社会にも配慮した化粧品」として選ばれたいのか。
届ける価値によって、ブランドの意味は変わります。
だから、誰にでも好かれることを目指すより、
「どんな人の、どんな場面で、自分たちは価値を発揮するのか」
を具体的に考える方が、ブランドの輪郭は見えやすくなります。
5.強みは顧客・競合・自社の3つから考える
「自社の強みは何ですか?」
ブランド戦略を考えるときによく出てくる質問です。
しかし、自社だけを見て考えると、
「品質が高い」
「顧客に寄り添う」
「丁寧に対応する」
といった、他社にも当てはまりそうな言葉になりがちです。
そこで必要なのが、顧客・競合・自社の3つの視点です。
協会の3C分析でも、顧客・競合・自社の情報を整理し、顧客ニーズと自社の強みが合うポイントや、競合も含めた市場機会を探る考え方が示されています。
顧客
顧客は何を求めているのか。
どんな不満や不安を持っているのか。
何を基準に選んでいるのか。
実際に自社を選んだ顧客は、何を評価してくれたのか。
競合
顧客には、他にどんな選択肢があるのか。
直接競合だけでなく、同じニーズを別の方法で満たす間接競合もあります。
競合はどんな価値を提供しているのか。
まだ十分満たされていない価値はないか。
自社
これまで何を大切にしてきたのか。
どんな技術、経験、人材、歴史、顧客との関係があるのか。
他社には簡単に真似できないものは何か。
この3つを重ねて、
顧客にとって価値があり、競合とは異なり、自社だから提供できるもの
を探します。
ブランド戦略でいう「強み」とは、単なる自慢ではありません。
顧客にとって意味のある独自性です。
6.「選ばれる理由」を顧客の心の中につくる
ブランド戦略では「差別化」という言葉をよく使います。
ただ、競合と違っていれば、それだけでブランドが選ばれるわけではありません。
重要なのは、
その違いが顧客にとって価値があるか
です。
ブランド・マネージャー認定協会では、ポジショニングを、ペルソナの心の中で競合と比較されても自社が優位な独自性を築ける位置を見つけることとして整理しています。
つまりポジショニングは、自社が勝手に決めるものではありません。
顧客の頭の中で、どのような位置を占めるのか
を考えるものです。
その独自性は、機能的価値かもしれません。
情緒的価値かもしれません。
社会的価値かもしれません。
使い方や買い方、対象となる顧客そのものが独自性になることもあります。
大切なのは、
「競合と何が違うか」
だけで終わらず、
「だから、顧客はなぜ自分たちを選ぶのか」
まで考えることです。
7.ブランドは「思い出される」ことで行動につながる
ブランド戦略を考えるうえで、もう一つ重要なのがブランド想起です。
ブランド想起には、「ブランド再認」と「ブランド再生」という考え方があります。
例えば商品パッケージやロゴを見たときに、
「あ、このブランド知っている」
と思うのがブランド再認です。
一方、
「ウイスキーを買いたい」
「週末に泊まるホテルを探そう」
「マーケティングを相談したい」
といったニーズが生まれたときに、特定のブランド名が頭に浮かぶ。
こちらがブランド再生です。
協会テキストでも、ニーズが発生した際に特定のブランドを思い起こすブランド再生を、購買行動につなげるうえで重要なものとして整理しています。
これは、前回の記事で取り上げた指名検索ともつながります。
ブランド名を検索してもらうためには、その前にブランドが記憶されていなければなりません。
だからこそ、ブランド戦略では、
「どう見られたいか」だけでなく、「どんなときに思い出してほしいか」
まで考えることが大切です。
出典:一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会『アドバンスコース テキストブック』
8.ブランド戦略をクリエイティブへ落とし込む
ここからは、ラテンサムライが実務で大切にしている考え方です。
ブランド戦略の方向性が定まったら、次はそれをどのように表現し、顧客体験へ落とし込むかを考えます。
その際に重要になるのがクリエイティブです。
いきなり、
「動画を作ろう」
「新しいロゴにしよう」
「広告コピーを考えよう」
とはしません。
まず、
- 誰に伝えるのか
- 何を伝えるのか
- どんな反応を生みたいのか
- どんな印象を残したいのか
を整理します。
そのための設計図がクリエイティブブリーフです。
ブランド戦略を、コピーライター、デザイナー、映像クリエイターなどが表現できる言葉へ翻訳します。
協会のブランド構築ステップでも、独自性を見つけ、ブランド・アイデンティティを明確にした後、顧客視点と企業視点から具体化し、ブランド体験やブランド要素へ落とし込む流れが示されています。
LSCではその間にクリエイティブブリーフを置き、
ブランド戦略が「何を伝えるか」を決め、クリエイティブが「どう心に残すか」をつくる
という順番を大切にしています。

9.メディアは最後に考える
そして、メディアを考えるのは最後です。
「SNSが伸びているからSNSをやる」
「動画が流行っているからYouTube広告を出す」
「認知ならテレビCM」
という順番では考えません。
まずブランド戦略を整理する。
次にクリエイティブブリーフをつくる。
そしてクリエイティブとして表現する。
そのうえで、
「この表現を、誰に、どの接点で届けるのが最も効果的か」
を考えます。
SNSかもしれません。
検索広告かもしれません。
PR、動画、OOH、店頭、イベントかもしれません。
幅広い認知が必要であれば、テレビCMが適している場合もあります。
媒体そのものに正解があるわけではありません。
順番が重要です。
ブランド戦略立案
→ クリエイティブブリーフ
→ クリエイティブ開発
→ メディア設計
メディアは目的ではありません。
ブランド戦略を実現するための手段です。
10.ブランドは顧客体験の中で育つ
ここまでブランド戦略を考えても、最終的にブランドを決めるのは企業ではありません。
顧客が実際にどう感じたかです。
広告では「親切」と言っているのに、問い合わせへの対応が冷たい。
「高品質」を掲げているのに、実際の商品体験が期待に届かない。
「革新的」と言っているのに、サービスの使い勝手が悪い。
こうしたズレがあれば、ブランドは長く育ちません。
反対に、
伝えている価値と、
商品やサービスと、
社員の行動と、
顧客が体験することが一致していれば、
ブランドへの信頼は強くなります。
協会テキストでも、ブランド・イメージとブランド・アイデンティティを一致させるために、ブランド要素やブランド体験を一貫して設計・管理する重要性が示されています。
ブランド戦略は、ブランドを「宣言する」ためのものではありません。
企業が約束した価値を、顧客体験の中で実現し続けるための基準でもあります。
まとめ|ブランド戦略は、施策を選ぶ前の設計図
今回のポイントを整理します。
- ブランド戦略は、顧客からどう認識され、なぜ選ばれるかを設計するもの
- 経営戦略・マーケティング戦略・コミュニケーションは分断せず、一貫させる
- 「誰に、どんな価値を届けるか」から考える
- 顧客・競合・自社の3つの視点から、顧客にとって意味のある独自性を探す
- 単なる違いではなく、「なぜ選ばれるのか」を考える
- 必要になったときに思い出されるブランドを目指す
- ブランド戦略からクリエイティブへ落とし、最後にメディアを設計する
- ブランドは、実際の顧客体験との一致によって育っていく
Webサイトを作る。
SNSを始める。
広告を出す。
動画をつくる。
そうした施策を決める前に、
「私たちは誰に、どんな価値を届け、どのような存在として選ばれたいのか」
を一度考えてみてください。
ここが整理されると、クリエイティブも、Webも、広告も、施策の選び方そのものが変わります。
ブランド戦略は、きれいな見た目をつくるためのものではありません。
企業の価値を、顧客にとっての「選ぶ理由」へ変え、事業全体に一貫性をつくるための設計図です。
自社の「選ばれる理由」を、一度整理してみませんか?
「自社の強みをうまく言葉にできない」
「Webや広告、SNSなどの施策がバラバラになっている」
「リブランディングを考えているが、どこから始めればいいかわからない」
そんな段階でも構いません。
ラテンサムライでは、企業の想いや歴史、事業、顧客、競合を整理しながら、ブランド戦略からクリエイティブ、マーケティング、実行まで一緒に考えます。
何をつくるかが決まっていなくても大丈夫です。
まずは、今何を整理すべきなのかから一緒に考えます。