前回までの記事では、ブランド戦略からブランド・アイデンティティ、ブランド体験、目標設定まで、ブランド構築の流れを整理してきました。
今回は、それらを一つの設計図としてまとめるブランドステートメントについて考えます。
企業のブランドについて話をしていると、
「MissionやVision自体がまだ明確になっていない」
「理念はあるけれど、社員によって会社の説明が違う」
「ブランド戦略を考えたけれど、Webや営業、広告にどう反映すればいいかわからない」
といった状態によく出会います。
ブランドづくりでは、Mission、Vision、Valuesを定めることも重要です。
ただし、それだけでブランドが完成するわけではありません。
自分たちは何者なのか。
誰に、どんな価値を届けるのか。
なぜ自分たちが選ばれるのか。
顧客からどう思われたいのか。
そして、それをどのような表現と体験として届けるのか。
そこまでを一本につなげて初めて、ブランドは日々の企業活動で使えるものになります。
ラテンサムライでは、ブランドステートメントを、
「自社は何者で、誰に、どんな価値を届け、なぜ選ばれたいのか」を整理し、ブランド要素やブランド体験、Web、営業、広告・広報、採用、店舗などの判断につなげるためのブランドの設計図
と捉えています。
単に格好いいキャッチコピーをつくることではありません。

1.ブランドステートメントは「会社紹介文」ではない
「ブランドステートメント」と聞くと、会社の理念を短くまとめた文章や、Webサイトに掲載するメッセージ、ブランドのキャッチコピーのようなものをイメージするかもしれません。
ただ、LSCではもう少し広く捉えています。
ブランドステートメントをつくる目的は、
言葉をつくることではなく、企業の判断基準をそろえること
です。
例えば、
「品質にこだわっています」
「お客様第一です」
「地域に貢献します」
という言葉だけでは、なぜその会社を選ぶべきなのかまでは見えてきません。
本当に整理したいのは、
誰に価値を届けるのか。
その人は何に困っているのか。
競合ではなく、自社だから提供できるものは何か。
顧客からどう思われたいのか。
その価値を、商品やサービス、Web、営業などでどう体験してもらうのか。
です。
つまりブランドステートメントは、
会社が言いたいことをまとめるものではなく、「選ばれる理由」を一本につなぐもの
だと考えています。
2.MVVやタグラインとは何が違うのか
ここは混同されやすいところです。
Mission、Vision、Valuesは、
「私たちは何のために存在し、どこを目指し、何を大切にするのか」
を示すものです。
会社によっては、そもそもMVVがまだ定義されていないこともあります。
その場合には、ブランドづくりの過程でMission、Vision、Valuesそのものを整理することもあります。
ただし、MVVをつくること自体がブランドづくりのゴールではありません。
MVVを土台にしながら、
「誰に価値を届けるのか」
「市場や競合の中で、なぜ自社が選ばれるのか」
「顧客からどんな存在として認識されたいのか」
まで整理する必要があります。
そこで重要になるのが、ブランド・アイデンティティです。
ブランド・アイデンティティは、
顧客から「どう思われたいのか」
を明確にする、ブランドの軸です。
ブランド・アイデンティティについては、以前の記事で詳しく解説しています。
→「ブランド・アイデンティティとは?『どう思われたいか』を言葉にする考え方」
そしてタグラインは、そのブランドらしさを顧客に伝えるためのブランド要素の一つです。
つまり、
MVV=企業としての土台
ブランド・アイデンティティ=顧客からどう思われたいかというブランドの軸
ブランド要素・ブランド体験=その軸を実際に伝え、感じてもらうための設計
という関係です。
ラテンサムライ自身のブランド設計でも、顧客の期待、自社の能力、自分たちが提供したい価値を整理したうえで、ブランド・アイデンティティを「価値を磨き、伝わるブランドに翻訳する伴走者」と定めています。
一方、
「社外なのに、身内以上。」
はタグラインです。
ブランド・アイデンティティとタグラインは似て見えますが、役割は異なります。
前者はブランドの軸。
後者は、その軸を顧客に伝えるための表現です。
ブランドステートメントは、それらをバラバラに考えるのではなく、
理念、顧客、市場、競合、自社の強み、提供価値、ブランド・アイデンティティ、ブランド要素、ブランド体験を一つの方向へそろえるための設計図
という位置づけです。
3.ブランドステートメントで整理したい5つのこと
ブランドステートメントをつくるとき、難しいフレームワーク名を並べるよりも、最終的には次の5つが一本につながっているかを見る方が実務では重要だと思っています。
① 誰に届けるのか
すべての人に好かれるブランドをつくることはできません。最も価値を感じてほしい顧客は誰なのか。その人が何に困り、何を大切にし、何を基準に選ぶのかまで考えます。
② その人は何を求めているのか
顧客が欲しいのは、商品そのものとは限りません。例えばWebサイトを依頼する企業も、「ホームページが欲しい」のではなく、「自社の強みを伝えたい」「問い合わせを増やしたい」「価格だけで比較されたくない」と考えているかもしれません。
③ なぜ自社なのか
ここが「選ばれる理由」です。自社の歴史、技術、人、考え方、経験、顧客との向き合い方などを整理し、競合ではなく自社だから提供できる価値を見つけます。LSC自身の検討でも、「施策を売る前に診断し、優先順位を設計すること」「Web集客からブランディングまで伴走すること」などを、自社ならではの能力として整理しています。
④ どう思われたいのか
顧客、市場、競合、自社の強みを整理した先で、「この会社は○○な会社だ」と、どんな認識を持ってもらいたいのかを定めます。これがブランド・アイデンティティです。
⑤ それをどう表現し、体験してもらうのか
ブランド・アイデンティティを決めただけでは、顧客には伝わりません。
次に必要なのは、そのブランド・アイデンティティを具体的なブランド要素とブランド体験に落とし込むことです。
ブランド要素には、ブランド名、ロゴ、色、タグラインなどがあります。実務ではさらに、言葉遣いやデザイン、写真・映像のトーンなども、表現上のルールとしてそろえていきます。
そしてブランド体験とは、それらを顧客が実際の接点でどう感じるかです。
Webサイト。
広告。
営業。
店舗。
商品・パッケージ。
問い合わせ対応。
採用。
購入後のサポート。
など、企業と顧客の接点は数多くあります。
大切なのは、接点ごとに別々の表現をつくることではありません。
一つのブランド・アイデンティティから、各ブランド要素とブランド体験が一貫して設計されていること。
例えば「親しみやすく、専門的な伴走者」というブランド・アイデンティティを掲げながら、Webサイトは難解な専門用語ばかり、営業担当者は一方的に売り込み、問い合わせ対応も事務的であれば、ブランドとしての一貫性はありません。
ブランドは言葉ではなく、顧客が企業とのさまざまな接点で感じる体験の積み重ねによってつくられます。
LSC自身のブランド設計でも、ブランド・アイデンティティを4P/4Cへ具体化し、その後、購入前から購入・利用、利用後、再購入までのブランド体験へ落とし込んでいます。
4.ブランドステートメントは「掘る → 選ぶ → 言葉にする → 体験にする」
実際に策定するときも、いきなり会議室で、
「ブランドステートメントを考えましょう」
とコピーを出し合うわけではありません。
LSCでは、大きく5つの段階で考えます。
掘る
まず、会社の中にすでにある価値を探します。
会社の歴史。
経営者の想い。
顧客から評価されていること。
自分たちでは当たり前だと思っている強み。
競合との違い。
こうしたものを、経営者や社員へのヒアリング、市場・顧客・競合の整理などを通じて掘り起こします。
選ぶ
企業には、伝えられる強みがいくつもあります。
ただ、すべてを同じ強さで発信すると、かえって何の会社なのかわからなくなることがあります。
そこで、
「誰に、どの価値で選ばれたいのか」
を決めます。
定める
顧客、市場、競合、自社の強みを整理したうえで、
「顧客からどんな存在として思われたいのか」
をブランド・アイデンティティとして定義します。
必要であれば、この過程でMission、Vision、Valuesなど企業理念そのものも再整理します。
ただし、理念をつくって終わるのではなく、顧客から選ばれる理由まで含めてブランドの軸を定めます。
設計する
ブランド・アイデンティティを、ロゴ、タグライン、色、言葉、デザインなどのブランド要素へ落とし込みます。
同時に、
Web。
営業。
広告・広報。
採用。
店舗。
商品・サービス。
など、それぞれの接点でどのようなブランド体験を提供するのかを設計します。
体験にする
そして最後に、それを実際の企業活動へ落とし込みます。
何を発信するのか。
営業担当者がどう話すのか。
何を提案し、何を提案しないのか。
問い合わせにどう対応するのか。
商品やサービスをどう提供するのか。
まで、一貫していなければなりません。
だからブランドステートメントづくりは、コピーライティングだけではありません。
経営や事業に埋もれている価値を掘り出し、顧客に伝わるブランドとして設計し、実際の体験へ翻訳する仕事
だと考えています。
5.ブランドステートメントを作ったあと、何に使えるのか
ブランドステートメントは、完成した資料を保管して終わりではありません。
むしろ、そこからが重要です。
例えばWebサイトをリニューアルするとき。
「かっこいいデザインにしてください」
から始めるのではなく、
「このブランド・アイデンティティを、Web上でどう体験してもらうか」
から考えられます。
営業資料でも、
会社概要を並べるだけではなく、
顧客がなぜこの会社を選ぶべきなのか
を軸に構成できます。
広告・広報では、何を発信するのか。
採用では、どんな会社で、何を大切にしているのか。
店舗では、空間や接客を通じて何を感じてもらうのか。
商品やパッケージでは、ブランドらしさをどう表現するのか。
制作会社や外部パートナーと仕事をするときにも、共通の判断基準になります。
実際にLSC自身でも、ブランドステートメントの要約版を外部パートナーへ共有し、ブランドの一貫性を保つ運用を想定しています。 つまりブランドステートメントは、
社内向けの理念資料でも、外向けの広告コピーでもなく、会社のさまざまな判断をつなぐ共通言語
になります。
6.こんな企業ほど、一度整理する価値がある
特にブランドステートメントを整理する意味があるのは、
「MissionやVisionがまだ明確になっていない」
「良い商品なのに、違いをうまく説明できない」
「社員によって会社の強みの説明が違う」
「Webサイト、営業資料、採用サイトで言っていることがバラバラ」
「リブランディングしたいが、まずロゴから変えようとしている」
「創業者の想いはあるが、次世代へうまく言葉で残せていない」
といった企業です。
こうした状態で広告やWeb制作から始めると、
伝え方を変えているのに、そもそも何を伝えるかが決まっていない
ということが起こります。
だからLSCでは、制作物をつくる前に、
まず価値を見つけ、選ばれる理由を整理する
ことを大切にしています。
まとめ|ブランドステートメントは「選ばれる理由」の設計図
ブランドステートメントは、格好いい文章をつくることが目的ではありません。
自分たちは何者なのか。
誰に、どんな価値を届けるのか。
なぜ自分たちが選ばれるのか。
顧客からどう思われたいのか。
それを、どんな表現と体験として届けるのか。
を一つにつなげることです。
MissionやVisionをつくることも、ロゴやWebサイトをつくることも、ブランドづくりの大切な一部です。
しかし、それぞれを個別につくるだけでは、ブランドは一本につながりません。
企業の存在価値から、選ばれる理由、ブランド・アイデンティティ、ブランド要素、ブランド体験までを一つの方向へつなげる。
ブランドステートメントは、そのための設計図です。
自社の「選ばれる理由」を一度整理してみませんか?
ラテンサムライでは、Mission・Vision・Valuesがまだ整理されていない段階からでもご相談いただけます。
経営者や社員へのヒアリング、市場・顧客・競合の整理を通じて、自社の存在価値と選ばれる理由を見つけ、ブランド・アイデンティティを定義します。
さらに、必要に応じてブランド要素やブランド体験を設計し、Web、営業、広告・広報、採用、クリエイティブなどの各接点まで一貫して形にしていきます。
MVVをつくることがゴールでも、ロゴをつくることがゴールでもありません。
自社らしい価値が、社員にも顧客にも一貫して伝わる状態をつくること。
そこまでを一緒に考えます。